<DAY3>ポルト一日観光
11/2 9:10 スペイン マドリード発
11/2 9:40 ポルトガル ポルト着
朝の6時半にマドリードの宿を後にし、その昔立ち乗りを検討していたというほど鬼畜と謳われる悪名高きライアンエアを利用した。この航空会社を使えば数百円からヨーロッパ圏内の移動が可能という夢のような話。事実私も1800円の航空券で今回ポルトへ飛んだ。
心配とは裏腹に呆気なくポルトガルの第二都市ポルトに上陸する。ここからはメトロE線に乗り、市内へ向かう。空港始発の一本線しかないので非常に分かりやすい。大抵の客がTrindade駅で降車するから€2.4の乗車券だけ買って付いていけばいい。
Trindade駅の近くに古びた飲食店がある。
お腹も空いていたので直感的にこの店に入った。入り口では大量の鶏肉を炭で網焼きにし、浅草のどこかの酒場で見たような大きな鍋が鼻孔をくすぐり更に客を誘き寄せている。
店員は8割が男性だった。この時、衛生検査員のような白衣の女性が早口のポルトガル語で喋りながらボードにチェックを入れ、店員は奥でその対応に追われていた。
オススメをくれ、肉は何だと聞くとチキンだと言う。あぁ、あの入口で焼いているやつか。じゃあそれをと頼む。
出されたのは豚の煮込みだった。少し硬めの細長い米がよく煮込まれたゼラチン質の肉と野菜と豆の旨味を吸収して柔らかくなろうと頑張っている。キャベツはくたくたで人参は刺せば崩れそうなほど。味は優しく安心する。今年死んだ父親の手料理を少し思い出しながら食べた。父の得意料理はトマトと卵の炒め物で、これもすこぶる柔らかいのだ。トマトは熱湯で皮を剥き一口大に切り、ふわふわの卵と申し訳程度に固める。私はこれが大好きだった。舌触りの良い料理は安心する。
醤油味ではないのに何故褐色なのか今思えば何も考えないまま平らげてしまった。ブラジル料理でよく見かける豆、フェジョアーダもたっぷり入っていた。そういえば植民地だったなと思い出す。
勘定はたったの€2.5だった。あぁ旅に来たなぁ。
宿まではチーズ屋や干し鱈の店が数店と、アズレージョの建築物もそこかしこに並んでいて歩いているだけで発見があった。
宿で荷を下ろし、自転車を借り石畳の道をぐんぐん進む。坂道が多いが、ポルトは車の入らない小さな道が多いから移動に便利だった。そしてなんてったってスリに合わない。
この美術館、ポルトガル最古の美術館なのだがフラッシュを焚かなければ写真が撮り放題と太っ腹な上に、恐ろしい程ガラ空きで全然邪魔が入らない。
前日に迷宮のようなプラド美術館で疲弊していた私はこのこじんまりとした美術館がすぐに好きになった。
中世の街並みとアズレージョの美しい教会と石畳の上を走る路面電車と、過去と未来が上手く合わさって街全体で呼吸しているようだった。
Bolhão駅のすぐそばにボリャオン市場という庶民の台所がある。
今回の旅はその土地の食材で自炊をすることも楽しみのひとつだから、市場に行くのは一際ワクワクした。昼は肉料理だったから夜は魚貝類でパエリアにしようと思った。しかしポルトの名産品、鱈の塩漬けは一晩水に晒さなければ使えない。下手な英語で今夜鱈が食べたいのだけど生のものはある?と伝えると、生は無いがちょうど漬けたばかりの鱈があるからと出してきてくれた。これを熱湯で5分戻して使ってね、と言う。アサリとムール貝と海老も併せて買う。別れ際、お釣のコインに軽くキスして渡してくれた。頑張ってねって意味なんだろう。嬉しい気持ちで市場を後にした。
17時過ぎに老舗マジェスティックカフェへ。ピアノの生演奏の時間を予め問い合わせて17:00〜18:30に行われることを知っていたから狙って向かった。
支配人と思しきスーツの男性に入り口で当のメールを見せたら「これを書いたの僕だね」と少し笑いながら教えてくれた。ピアノから程近い席に案内してもらう。
例に違わずオススメを下さいと頼む。
いちいち椅子まで可愛いからときめかざるを得ない。
ピアノの音色と内装に目を輝かせていたらキビキビと動く給仕がうっとりするくらいテキパキと皿を並べた。
このフレンチトーストが絶品で今迄食べたフレンチトーストの中で一番美味かった。バターが香り味の染み込んだトーストの上に、黄身を溶かしたカスタードソースとドライフルーツ・ナッツが散らされている。甘いけれど全然くどくない。フォークで形どられたシナモンも良いアクセントだった。
幸福な気持ちのまま夜風に当たりたくて海辺に走った。ドン・ルイスⅠ世橋からの眺めは美しく、時折走る路面電車がぼんやりと眺めた時間の経過を知らせてくれる。
夜景を楽しんだ後、世界一美しい書店とも言われるLELLOへ。閉店間際なこともあり人もまばらだった。ネオゴシック様式の内装とステンドグラスが眩しい。
ガイドブックから大きい本屋を連想していたが実際はとても小さく、ふらりと立ち寄ることが出来る。
宿に戻ってポートワインを飲みながらのんびり料理。
近くにいた若いルームメイト数人が興味を持ったのでパエリア(もどき)をお出しした。
言われた通りに鱈はお湯で戻した。
数分後には全て無くなったのだけれど、言葉を持たないパエリアおばさんは質問に上手く答えられず、逆に気を遣わせてしまうのでした。当たり前だけど言葉が使えないとコミュニケーションって難しいね。
時差ボケで疲れたのか夜はぐっすりと眠り朝は日の出前に目覚めた。数分後には自転車にまたがって青白む世界に出かけた。
朝の街では人よりもカモメが幅をきかせている。
ポルトではスイーツに特に良い思い出が出来た。生粋の辛党の私が言うんだからよっぽどだ。坂道に建つこのカフェがそう思う一助を担う。
朝早くからポパイのようなマッチョのおっちゃんがお菓子を焼き、笑顔のチャーミングな優しい主人が店を切り盛りしている。カウンターでは学校へ行く前の子供がお菓子を頬張り、テーブルでは近所のおばちゃんが世間話に花を咲かせている。愛されている店だと一目で分かる。
ショーウィンドウから直径7cm程のカステラのような見た目のお菓子を頼んだのだがこれが美味しくておかわりをした。このお菓子は「Queue ovo」だよと綴りを教えて貰ったのだが調べても直ぐには出てこない。カフェオレを頼んだらエスプレッソが出てきたが、これが正解だった。ポルトガルのお菓子は本当に甘いのだ。
朝の焼き立ては8時頃なら種類も豊富になっていて楽しめるに違いない。会計時に焼きたてのミートパイをこっそりプレゼントしてくれた。
焼き立てのパイ生地はサクサクで餡はしっかりとコクがあった。菓子だけじゃなくこういうものも美味いのか。既に会計を済ませていたから少し寒い空の下で頬張った温かいデニッシュが嬉しかった。
お腹も満たされて幸福だったから、昨晩よくしてもらった市場のおばちゃんに会いに行くことにした。パエリアの写真を見せてありがとうと伝えたら、写真を撮ったあと投げキッスで見送ってくれた。
昨日は閉まっていたおばあちゃんの営む衣料品店が開いていて、彼女が編んだという毛糸の靴下がカゴに積まれていた。冷え性の恋人が朝まで仕事しているのが私は気になって仕方なかったから、サイズを一生懸命聞いて選んだ。ポルトのおばあちゃんの手編みの靴下がお土産だって言ったら恋人はどんな顔をするのかな。
9時の教会の鐘を聞いたらグレゴリスの塔へ登ると良い。狭い塔のてっぺんで誰にも邪魔されず街を一望出来るから。
上空から眺めるポルトの街並みはどことなくフィレンツェに似ている。
昼前にはE線に飛び乗って空港へ戻り、再びスペインへ。
たった昨日のことなのに、この記事を今バルセロナの宿で懐かしく思いながら書いている。ポルトが好きだ。本当に好きな街に出会ってしまった。