死んだ父とその奥様へ

父が死にました。

今年の2月末のことです。

それを知ったのは引越し、戸籍を移したタイミングで、今年の9月のことです。

チェーンスモーカーで煙草をどんなにふかしても元気な姿しか見てこなかったから、死んだなんて嘘だと、不思議でなりませんでした。

私は妾の子です。

だから父のことを逐一知ることは出来ませんでした。

妾の子ということは、特に隠してもいません。

父が好きでした。

今でも好きです。

母に暴力を振るっていた姿も記憶しているので、どうしようもない父だったかも知れません。

でも母も泣き虫でヒステリックでどうしようもない人でした。

どうしようもない2人が寄り添ってどうしようもない女が産まれました。それが私です。

父が死んで、父の奥様を知りました。

父の奥様は父と二度結婚しています。

経緯は知りません。

それでも、父のことを知る手がかりは、父の奥様しか居ません。

 

昨日、戸籍に記載されていた住所に行きました。

住んでるかどうかは灯りがついていないので分かりませんでしたが、マンションの一室の標札には父の苗字が刻まれていました。

なので父の奥様に手紙を書くことにしました。

まだ文面は変えると思います。

気持ちをどんな風に伝えるか、今、考えあぐねています。

 

「初めまして、突然のお手紙失礼します。
〇〇(父)さんについてお伺いしたくお手紙を書きました。
単刀直入に申し上げます。私の父についてお伺いしたく、△△さん(奥様)のお気持ちも知らずこのお手紙を書くことを決めました。
最後まで読んで下さらなくても大丈夫です。それでも、どうしても、お伝えしたく書きます。
私が父と最後に会ったのはもう随分と前のことで、思い出す顔も少し若い時のものです。〇〇(父)さんは、癖毛で、笑顔のクシャッとした背の高い男の人です。それが確かかどうか、私が幼かったから記憶が確かかも、もう分かりません。
父はお酒の好きな人でした。ゴードンというBARを新宿で営んでいました。だから私の小さな頃の写真には、何も知らないでニコニコしている私と歌舞伎町のネオン街が多く写っていたように記憶しています。
私の母は----といいます。〇〇(父)さんのBARで昔働いていたそうです。私はもう母とは暫く会っていませんが、きっとどこかで元気に暮らしてると思います。
さて、申し遅れましたが、私は☆☆織江という名前の26歳の女です。☆☆という苗字は23歳の時に結婚していた元旦那の苗字で、旧姓は--と言います。--織江といいます。
私は平成2年の4月13日に----と〇〇(父)の間に産まれました。
父はお酒を飲みながらキャメルの煙草をよくふかしていました。もしかしたらラッキーストライクだったかも知れません。煙草をよく吸っていて、どんな銘柄かはきちんと覚えていません。曖昧でごめんなさい。肺を悪くするよ、と母とよく言い合ったのを覚えています。
叙々苑が好きで、よく連れて行ってくれました。成人したら一緒にお酒を飲もうと言ってくれました。お酒を飲みながら恋人を紹介して、ともよく言ってくれました。
得意料理はトマトと卵の炒め物で、湯剥きしたトマトが半熟の卵と和えられた美味しいものでした。それは今でも父の味として私の大切な思い出の一部です。
私のことは「おーちゃん」と呼んでいました。私のことをそう呼ぶ人は親くらいで、そのことを思い出すと少し寂しいようなよく分からない気持ちになります。
父とは幼稚園の時の少ない記憶しか残っていないのですが、小学校に入ると『あなたのお父さん』とかそんなテーマでものを書かされて、その度に家には居ないけれどなんて書こうかな、なんて考えたような気がします。
〇〇(父)さんは優しい人でした。私とは歳が60も離れていたからか孫みたいに思ったのか、パパと呼ぶと嬉しそうにしてくれました。

家にはたまにしか居ませんでした。

母も常に働いていたので、家にはベビーシッターさんがよく居ました。正直、寂しくて、思春期の頃は父親がいないことで母とよく揉めました。
私は今、26歳で、--区に住んでいます。

父親に紹介したい恋人がいます。それで、連絡先も分からず、戸籍を取り寄せました。今年の9月のことです。その時に父が半年前にこの世を去ったことを知りました。
そんなこともこんな方法でしか知れないんだ、もう少し早く知れたらと寂しくなりました。
△△さんのことも、△△さんが父と再婚したこともその時に知りました。
母は父が好きでした。でも、母は△△さんには敵わなかったんだなぁとも、その時知りました。

△△さんはきっと強くて優しい人なんだと思います。だから手紙を書きました。
私は母とは不和です。きっと母も父が死んだことは知りません。だけれど、私にとっては父は唯一無二で、父の話をお伺い出来るのも△△さんしかいません。
私は恨みもつらみも何もありません。私の我儘ですが、私は父の話がしたいです。私は、知らないなりに父が好きでした。
今も父が好きです。
たぶんこのまま歳を重ねていったら消化できない気持ちがいっぱい残るだろうと思っています。だからどうか、少しお話させて頂けたら嬉しいと思っています。
よろしくお願いします。
どうかよろしくお願い致します。
これから寒くなるのでお身体お気をつけ下さい。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
お返事待ってます。」

 

まだどうしていいか分からないんだけど、ぼろぼろ泣きながら文を考えていたら恋人が背中をさすってくれて、「ふつうの家に産まれたかった」って弱音をこぼした。
「ふつうの家をつくっていこう」って冗談でも言ってくれたのが嬉しかった。

 

手紙を書かなくちゃ

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